教育

高等教育関連用語集

*以下の用語解説は,基本的に「学士課程教育の再構築に向けて(審議会経過報告)」(平成19年9月18日中央教育審議会大学分科会 制度・教育部会 学士課程教育の在り方に関する小委員会)の中で記載されているものの中から一部選出して取り上げさせてもらっています。その他のものについては,出典を明記して記載していきたいと思います。

カナ(50音順)

アクティブ・ラーニング…伝統的な教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学習者が能動的に学ぶことによって,後で学んだ情報を思い出しやすい,あるいは異なる文脈でもその情報を使いこなしやすいという理由から用いられる教授法。発見学習,問題解決学習,経験学習,調査学習などが含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワークなどを行うことでも取り入れられる。

アドミッション・オフィス入試(AO入試)…アドミッション・オフィス入試には法令上の定義はなく,その具体的な内容は各大学の創意工夫にゆだねられている。平成20年度大学入学者選抜実施要項では,「詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって,入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲,目的意識等を総合的に判定する方法」と記されている。

学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針…入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)に加えて,将来像答申が新たに提唱した「教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(ディプロマ・ポリシー,カリキュラム・ポリシー)」に対応するもの。入学者受入れの方針と異なり,モデルとなる具体例や典型的な形態が存するものではない。将来像答申は,組織的な取組の強化が大きな課題となっている我が国の大学の現状を踏まえ,各機関の個性・特色の根幹をなすものとして,3つの方針の重要性を指摘するとともに,「早急に取り組むべき重点政策」の中で,3つの方針の明確化を支援する必要性を強調している。

学士と学士課程教育…従来,学士課程教育は,一般的に「学部教育」などといった「組織」に着目した呼び方がなされていた。しかし,知識基盤社会においては,新たな知の創造と活用を通じ,我が国社会や人類の将来の発展に貢献する人材を育成することが必要であり,そのためには,「○○学部所属」ではなく,国際的通用性のある大学教育の課程の修了に関わる知識・能力を習得したことが重要な意味を帯びる。学位は,そのような知識・能力の証明として,大学が授与するものであることが,国際的にも共通理解になっており,その学位を与える課程(プログラム)に着目して整理し直したものが,学士課程教育である。

学習成果(ラーニング・アウトカム)…学習成果は,プログラムやコースなど,一定の学習期間終了時に,学習者が知り,理解し,行い,実演できることを期待される内容を言明したもの。学習成果は,多くの場合,学習者が獲得すべき,知識,スキル,態度などとして示される。またそれぞれの学習成果は,具体的で,一定の期間内で達成可能であり,学習者にとって意味のある内容で,測定や評価が可能なものでなければならない。学習成果を中心にして教育プログラムを構築することにより,従来の教員中心のアプローチから,学生(学習者)中心のアプローチへと転換できること。また,学生にとっては,到達目標が明確で学習への動機付けが高まること。プログラムレベルでの学習成果の達成には,カリキュラム・マップの作成が不可欠で,そのため教員同士のコミュニケーションと教育への組織的取組が促進されること。さらに,学習成果の評価(アセスメント)を通じて,大学のアカウンタビリティが高まること,などが期待される。

学習ポートフォリオ…学生が,学習過程ならびに各種の学習成果(例えば,学習目標・学習計画表とチェックシート,課題達成のために収集した資料や遂行状況,レポート,成績単位取得表など)を長期にわたって収集したもの。それらを必要に応じて系統的に選択し,学習過程を含めて到達度を評価し,次に取り組むべき課題をみつけてステップアップを図っていくことを目的とする。従来の到達度評価では測定できない個人能力の質的評価を行うことが意図されているとともに,教員や大学が,組織としての教育の成果を評価する場合にも利用される。

キャップ制…単位の過剰登録を防ぐため,1年間あるいは1学期間に履修登録できる単位の上限を設ける制度。我が国の大学制度は単位制度を基本としているが,大学設置基準上1単位は,教員が教室等で授業を行う時間に加え,学生が予習や復習など教室外において学習する時間の合計で,標準45時間の学修を要する教育内容をもって構成されている。また,これを基礎とし,授業時間は1学年間におよそ年30週,1学年間で約30単位を修得することが標準とされ,したがって大学の卒業要件は4年間にわたって124単位を修得することを基本として制度設計されている。

コンピテンシー…知識や技能(スキル)そのものではなく,それらを駆使して業務上の課題を遂行・解決する能力に着目した概念。近年,企業における能力評価の道具として開発されたが,教育や臨床心理学などの分野において広く使用されるようになった。新たな概念で定義は一律でなく,アメリカでは高業績をあげる人の行動特性として,イギリスでは標準的な業務遂行能力として使われることが多い。わが国では,これまでの職能資格制度が評価基準としてきた潜在能力に対立する能力観として,成果主義とともに導入された経緯から「顕在能力」という意味合いが強い。

サービス・ラーニング…教室でのアカデミックな学習と地域社会での実践的課題への貢献を結びつけた経験学習の一形態である教授・学習法。地域社会における現実の問題を解決するという課題を,教室で学んだ知識を活かして取り組むことにより,学習内容について深められると共に,市民的責任を学び,市民としての社会参加を促進するといわれている。アメリカでは広く採用されている。

GP事業…「GP」とは,大学教育改革の「優れた取組」という意味で国際的にも広く使われている「Good Practice」の略称。GP事業とは,各大学が自らの大学教育に工夫を凝らした優れた取組で他の大学でも参考となるようなものを公募により選定する文部科学省の事業の通称。「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)と「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)等がある。1.国公私立を通じた競争的環境の下で,2.第三者による公正な審査により選定し,3.取組の内容を社会に広く情報提供するという3つの特徴がある。

初年次教育…高等学校から大学への円滑な移行を図り,大学での学問的・社会的な諸経験を“成功”させるべく,主として大学新入生を対象に作られた総合的教育プログラム。高等学校までに習得しておくべき基礎学力の補完を目的とする補習教育とは異なり,新入生に最初に提供されることが強く意識されたもので,1970年代にアメリカで始められ,国際的には「First Year Experience(初年次体験)」と呼ばれている。具体的内容としては,(大学における学習スキルも含めた)学問的・知的能力の発達,人間関係の確立と維持,アイデンティティの発達,キャリアと人生設計,肉体的・精神的健康の保持,人生観の確立など,大学における教育上の目標と学生の個人的目標の両者の実現を目指したものになっている。

シラバス…各授業科目の詳細な授業計画。一般に,大学の授業名,担当教員名,講義目的,各回ごとの授業内容,成績評価方法・基準,準備学習等についての具体的な指示,教科書・参考文献,履修条件等が記されており,学生が書く授業科目の準備学習等を進めるための基本となるもの。また,学生が講義の履修を決める際の資料になるとともに,教員相互の授業内容の調整,学生による授業評価等にも使われる。

スタッフ・ディベロップメント(SD)…事務職員や技術職員など職員を対象とした,管理運営や教育・研究支援までを含めた資質向上のための組織的な取組を指す。「スタッフ」に教員を含み,FDを包含する意味としてSDを用いる場合(イギリスの例)もあるが,ここでは,FDと区別し,職員の職能開発の活動に限定してSDの語を用いている。

セメスター制…1学年複数学期制の授業形態。日本で多く見られる通年制(一つの授業を1年間通して実施)の前・後期などとは異なり,一つの授業を学期(セメスター)毎に完結させる制度。諸外国では一般的であり,個々の学期が15週程度で2学期制の伝統的セメスター制度(traditional semester system)のほか,初期セメスター制度(一方のセメスターが若干長い:early semester system),3学期制(trimester system),4学期制(quarter system)などを実施する大学もある。日本においても,一部の大学・学部で導入されている。 セメスター制は,1学期の中で少数の科目を集中的に履修し,学習効果を高めることに意義があるので,単に通年制の授業の内容が過密にならないような配慮も必要である。 さらにセメスター制には,学年開始時期が異なる大学間において円滑に転入学を実施できるというメリットがある。

選抜方法の多様化,評価尺度の多元化…大学入学者選抜実施要項において,大学入学者の選抜者に際しては,各大学・学部の教育理念,教育内容等に応じた入学者受入れ方針に基づき,受験生の能力・適性等を多面的に判定できるよう,「選抜方法の多様化,評価尺度の多元化」に努めるよう定めている。 「選抜方法の多様化」としては,従来から行われてきたペーパーテストによる学力検査を中心とする方法のみでなく,その他の様々な方法を導入することを指す。具体的には,高等学校長等の推薦に基づく選抜やアドミッション・オフィス入試,専門高校・総合学科卒業生,帰国子女,社会人などを対象とした選抜など。 「評価尺度の多元化」としては,学力のみを測るのではなく,それ以外の様々な面(意欲・関心,適性等)を評価することを目指した改善を指す。具体的には学力検査の他,調査書の内容,小論文,面接,リスニング,実技,ボランティア活動等の評価方法や配点の工夫など,様々な尺度を適切に組み合わせて行うこと。

単位制度の実質化…現在の我が国の大学制度は単位制度を基本としており,1単位は,教室等での授業時間と準備学習や復習の時間を合わせて標準45時間の学修を要する教育内容をもって構成されている。しかし,実際には,授業時間以外の学習時間が大学によって様々であるとの指摘や1回あたりの授業内容の密度が大学の授業としては薄いものもあるのではないかとの懸念がある。このような実態を改善するための種々の取組を総称して単位制度の実質化のための取組と言うことがある。

ティーチング・ポートフォリオ…大学等の教員が自分の授業や指導において投じた教育努力の少なくとも一部を,目に見える形で自分及び第三者に伝えるために効率的・効果的に記録に残そうとする「教育業績ファイル」,もしくはそれを作成するにおいての技術や概念及び,場合によっては運動を意味している。ティーチング・ポートフォリオの導入により,1.将来の授業の向上と改善,2.証拠の提示による教育活動の正当な評価,3.優れた熱心な指導の共有などの効果が認められる。

入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)…「入学者受入れの方針」は,各大学・学部等が,その教育理念や特色等を踏まえ,どのような教育活動を行い,また,どのような能力や適性等を有する学生を求めているのかなどの考え方をまとめたものであり,入学者の選抜方法や入試問題の出題内容等にはこの方針が反映されている。また,この方針は受験者が自らにふさわしい大学を主体的に選択する際の参考ともなる。 アメリカにおいては,高等学校の成績(GPA)の点数,高等学校で履修しておくべき科目・内容,SAT等の標準的な試験の点数などを具体的に示すことが一般的である。

ファカルティ・ディベロッパー(FDer)…FDを担当する専門スタッフ。集合研修の講師,個別教員に対するコンサルテーション,カリキュラム開発等の業務を行う。教授・学習支援センター等の組織に所属している。教員の場合と職員の場合があり,前者は授業を担当するがその科目数は一般教員に比較して少ない。後者は授業を担当せずに教育支援の業務を行うが,修士号以上を持つ専門職として位置づけられている。FDerの持つ専門分野は教育学,心理学,言語学,情報科学など様々である。諸外国では全国レベルでのFDerの専門職集団があることも多く,事例共有や相互研修を通して,能力開発に取り組んでいる。

ファカルティ・ディベロップメント(FD)…教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称。具体的な例としては,教員相互の授業参観の実施,授業方法についての研究会の開催,新任教員のための研修会の開催などを挙げることができる。なお,大学設置基準等においては,こうした意味でのFDの実施を各大学に求めているが,FDの定義・内容は論者によって様々であり,単に授業内容・方法の改善のための研修に限らず,広く教育の改善,更には研究活動,社会貢献,管理運営に関わる教員団の職能開発の活動全般を指すものとしてFDの語を用いる場合もある。

ユニバーサル段階…アメリカの社会学者マーチン・トロウは,高等教育への進学率が15%を超えると高等教育はエリート段階からマス段階へ移行するとし,さらに,進学率が50%を超える高等教育をユニバーサル段階と呼んでいる。「ユニバーサル」というのは,一般に「普遍的な」と訳されるが,トロウによると,「ユニバーサル・アクセス」というのは,誰もが進学する「機会」を保証されているという学習機会に着目した概念である。

履修証明…学士・修士等の学位とは異なるが,一定の課程の修了を証明するものとして,大学等が発行する証明書(アメリカでいうcertificate等に相当する)。 学校教育法の一部改正(平成19年6月27日交付,公布後6ヶ月以内に施行)により,大学等が文部科学大臣の定めるところにより,当該大学の学生以外の者を対象とした特別の課程を編成し,これを修了した者に対し,履修証明書を交付できるといった趣旨が規定された(改正後の第105条)。

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略語(アルファベット順)

GPA(Grade Point Average)…アメリカにおいて一般的に行われている学生の成績評価方法の一種,一般的な取扱いの例は次のとおりである。
(1)学生の評価方法として,授業科目ごとの成績評価を5段階(A, B, C, D, F)で評価し,この単位当たり平均(GPA,グレード・ポイント・アベレージ)を出す。
(2)単位取得はDでも可能であるが,卒業のためには通算のGPAが2.0以上であることが必要とされる。
(3)3セメスター(1年半)連続してGPAが2.0未満の学生に対しては,退学勧告がなされる。
 なお,このような取扱いは,1セメスター(半年)に最低12単位,最高18単位の標準的な履修を課した上で成績評価し,行われるのが一般的である。

PGCHE(Postgraduate Certificate in Higher Education;高等教育資格課程)…イギリスの大学において,新任教員等を対象に,大学教育を担当する専門家としての基礎的な能力の育成を目指して提供されるプログラム。その呼称は個々の大学によって異なるが,プログラムは,公的な設計基準(The UK Professional Standards Framework for Teaching and Supporting Learning in Higher Education:高等教育における教授及び学習支援の専門性基準枠組み)に準拠し,当該大学の教育目的等を踏まえた内容によって構成されている。プログラムでは,学習理論,授業科目の開発・計画,授業の方法,成績評価などに関し,講義やワークショップなどを通じて学習する。通常,2~3年にわたり,修士レベルの60クレジット(1クレジットは10時間の学修量)を取得することが,正規教員の任用条件として位置づけられる。 なお,「高等教育における教授及び学習支援の専門性基準枠組み」は,2003年の「高等教育白書」で提言され,その後,FD推進のナショナルセンターである「高等教育アカデミー(HEA)」が中心となって,2006年に策定された。その中では,大学教員の専門性として,6つの活動領域,6つのコア知識や理解内容,5つの価値観が掲げられている。

TA(Teaching Assistant)…優秀な大学院学生に対し,教育的配慮の下に,学部学生等に対するチュータリング(助言)や実験・実習・演習等の教育補助業務を行わせ,大学院学生への教育訓練の機会を提供するとともに,これに対する手当の支給により,大学院学生の処遇の改善の一助とすることを目的としたもの。

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