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研究テーマ:大学生の学びと成長を促す教育・学習環境のデザインと評価

 上記のテーマはいくつかの要素で構成されており,以下のようなサブテーマを設定して研究を行っている。研究を行う上で大切にしていることは,第1に「大学生の学びと成長」に結びつくものであること,第2に「実践志向的」であること,第3に「客観的な根拠(データ)」に基づくものであること,である。

1. 大学生の学びと成長(自己形成)に関する理論的・実証的研究【2002~】
(key word)大学生,学び,成長,自己形成
大学における学びとはどのような営みなのか。大学生が成長するとはどのようなことなのか。そうした自己の形成はどのようになされるのか。そして,それらはどのように関連しているのか。こうした問いに関する理論的・実証的研究を行う。
2. 教授・学習方法の改善(FD・アクティブラーニング・学習評価)に関する研究【2005~】
(key word)FD,アクティブラーニング,学習評価,授業デザイン
効果的な教授・学習方法に関して,開発・実践・検証を通じた検討を行い,授業デザインやFD実践への示唆を得んとする。
3. 大学生の学習支援に関する研究【2006~】
(key word)初年次教育,ピアサポート
大学における学生の学習支援,特に初年次教育やピアサポートに関するデザイン,実践,教育効果の検証といった点を中心に研究を行う。
4. 大学生の学習成果,学生エンゲージメントに関する研究【2007~】
(key word)学習成果(ラーニングアウトカム),学生エンゲージメント,正課・準正課・正課外
大学生の学習成果はどのように捉えられるのか。また,それを規定する要因は何か。どのように測定することが出来るのか。どのような取組(正課・準正課・正課外)によって身につけることが出来るのか。こうした問いに関する理論的・実証的研究を行う。
5. 教育の質保証(IR・アセスメント・カリキュラムデザイン)に関する研究【2009~】
(key word)質保証,IR,アセスメント,カリキュラムデザイン,組織開発
高等教育の質保証について,特にアセスメントやIRなどの教学データ(エビデンス)に基づく教育改善のサイクルを構築し,カリキュラムデザインや組織開発に活かすような開発・実践的研究を行う。
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研究テーマの変遷

1.自己形成論(Self-development)

 もともとは「自己論」に主たる関心があった。修士論文では,「理想自己に対する認知と行動の関連」という題目で研究を行った。特に,self-discrepancyの理論の検討から始まり,理想自己そのものが持つ自己形成への可能性について検討を行った。

 しかし・・・

 修士から心理学を学び始めたこと,ぎりぎりまで就職を希望していたこともあって,「本当に稚拙で未熟な論文」だった。また,方法論的にも,量的研究に対する違和感を抱えるも,それを脱却する術を持たず中途半端な感が残った。

 しかし・・・

 博士後期課程への進学の機会を得,修士論文の失敗も含め改めて「何がしたいのか」について考えた。そして「自己形成」という自己の成長・発達現象そのものに焦点を当てていこうと決めた。特にそのゆらぎが最も大きいと思われる「大学生」の自己形成について。これはやはり自分自身が大学生時代に様々な経験をし,最も自分が成長したと感じられる時期だったから,という個人的経緯も含まれている。

 そして,一度原点に返り,D1の時は心理学のみならず社会学や哲学など人間科学的な観点から文献を読みあさった。この時期,生産的な論文執筆活動は出来なかったが,現象を観る幅広い視野に立つことが出来たように思う。特に,

 「経験」「時間」「関係性」「力動性」「過程性」やそれを包含する「全体性」

といった観点から自己形成を捉えていく可能性について学ぶことが出来た。稚拙ながらもその成果が「青年期の自己形成に関する研究の概観と展望-現象(リアリティ)理解のためのトライアンギュレーション(『人間科学研究』2003)」にまとめられている。

 D2では,こうした見地をもとに,様々な観点からデータを収集し,それに基づき論文を執筆・投稿した。その成果は,「理想自己の観点からみた大学生の自己形成に関する研究(『パーソナリティ研究』2004a)」「現代大学生における自己形成とアイデンティティ-日常的活動とその文脈の観点から-(『教育心理学研究』2004b)」「過去-現在-未来にみられる青年の自己形成と可視化によるリフレクション効果-ライフヒストリーグラフによる青年理解の試み-(『青年心理学研究』2004c)」などにまとめられた。

 D3では,これらをまとめて,博士論文「青年期固有の文脈を考慮した自己形成の構造とプロセスに関する研究」として提出・受理された。

 しかし・・・

 やはり,データから言えることと,自身が論として考えることが乖離している感は拭えない。論としては,紆余曲折を経て「システム論」へと至った。その成果は,「システム論的自己形成論-複雑系とオートポイエーシスの視点から-(「自己意識研究の現在2」2005)」として刊行された。しかし,ここで展開している論は,現象の説明原理としては有効な枠組みかもしれないが,なかなかにデータに基づく研究との接合点が見出せずにいる。

 そして今・・・

 このように自己形成という営みを,単なる「一心理学的概念」としてではなく,広範な視点から位置づけ,理論的にもデータ的にも裏付けられるものとして研究していきたいと考えている。そのためには,更に理論面や方法論の面で研鑽を重ねていかねばならない。

2.大学生心理学(University Student Psychology)

 上述した「自己形成(論)」の問題は,今後も自らの研究を通底する「視点(対象)」として検討を重ねていく問題であるが,その研究の過程でもう一つ別の問題意識が沸き上がってきた。それは,

 「自身の研究を位置づける土台」

である。従来の研究領域の枠組みからすれば「青年心理学」なのだろう。が,青年心理学には,当然ながら大学生のみならず中・高生や成人期の人たちも含まれる。それ自体は「青年期の定義」からしても全く問題はないのであるが,私はとかく対象者が置かれる「文脈」にこだわっているし,その対象者は「大学生」である。こう書くと「対象者を限定することで生涯発達的な現代の動向に逆行しているのではないか」という批判もあるだろうが,私は全くそのようには考えていない。あえて大学生に特化して研究をすることで,また時としてそうではない対象と対比させていくことで,「大学という時代を過ごす青年」の独自性・意義が明確になっていくと考えている。これらの問題については,「大学生心理学という知の体系化に向けて(2005~)」などで報告されている。

 話を戻すと,当然であるが大学生の心理に特化した研究はこれまでにも多数報告されている。良質な研究ももちろんあるが,「大学生がデータの対象でしかない研究」や「理論などに裏付けられない実態調査的な研究」なども現に存在し,乱立状態にあるように思われる。

 研究知見が当の大学生自身や大学生に日々関わる教職員,あるいは臨床家などに還元されることを考えたとき,あるいは彼らと対話していこうとするとき,混乱してしまうのではないか。こうした問題意識も背景には存在している。

 そこで・・・

 大学生にまつわるデータベース的な役割を果たし,様々な立場で大学生に関わる専門家や非専門家との対話を促していく土台として「大学生心理学」を構想しているわけである。

 なお,この構想は全くの独創ではなく,これまでにも私の師である溝上慎一氏も含め,数名の研究者によって用いられている。また,この構想は,共同研究者であり,友人であり,ライバルでもある奥田雄一郎氏との議論によって進められている。

 そうした様々な立場で大学生に関わる人達との対話を実現していく手段として,2006年3月22日に行われた日本発達心理学会第17回大会で奥田氏と企画したラウンドテーブル「大学生研究再考-社会的・教育的・発達的意義を問う-」を皮切りに,メーリングリスト「大学生研究ネットワーク(Study of University Students Network;SUSNet)」を立ち上げた。

 今後は・・・

 大学生心理学の精緻化のために,重要な概念を抽出し,それらを既存の諸理論と付き合わせていきながら外堀を固めつつ,具体的な研究データを収集・分析・執筆し,内容面でも同時進行的に固めていく。特に,大学生にとって主要な問題である「学業・教育」の問題や「就職・キャリア発達」の問題などを意識しながら研究を進めていきたいと考えている。そして,各種学会での継続的な報告を行うとともに,論文・著書執筆なども含め幅広く展開していきたいと考えている。

3.大学教育研究(Studies of Higher Education)

 大学教育への関心は,大学院在学中および修了後所属していた京都大学の高等教育研究開発推進センターとの関わりの中で徐々に増していった。もちろん,前述したように「大学生心理学」を考える際に,大学における教育の問題は必然的に中心課題でもあるので,もともと関心は高い方である。

 特に,非常勤講師の経験などを含め,「協調学習」には大学教育研究として関心を持っている。その成果は,「大学教育における協調学習の果たす役割と効果-対面環境における異学年交流に着目して-(『神戸大学発達科学部研究紀要』2004)」として著されている。

 また,2005年4月~2006年7月まで所属していた京都大学高等教育研究開発推進センターでは,職務の一環として「(工学部における)卒業研究調査」プロジェクトや,他大学との「遠隔授業」実践に携わっていたり,様々な授業を見学したり検討会を行ったりしたこともあって,大学教育に関する多様な学びが促されている。

 最も有難く,心理学だけではなかなか見えてこないことは,「大学は今どうなっているか」ということである。大学生を捉えるために大学生自身の内在的視点を考慮することは,私の大学生研究にとって最重要視していることであるが,その際に彼らが絡め取られている文脈として「大学が様々な人たちの手によって位置づけられている」という事実が存在することを抜きにしては語れないのである。

 故に,大学教育研究を進めていくことは,上述した「自己形成(論)」や「大学生心理学」と別物ではなく,相補完的な関係にあるものとして位置づけられる。

 そして今…

 2006年8月以降,着任した島根大学教育開発センターにおいては,大学教育改革のより実践的な活動に従事するようになった。具体的には,教養教育を中心としたカリキュラム改革やそれに関連する環境教育やフィールド学習,キャリア教育の推進,評価室と連携して認証評価等への対応,その他「教育」と名のつくもの全てに携わることになっている。そうした中,自身が中心的な活動として位置づけているものは,全学的なFD活動の推進を,特に学生の視点を踏まえて,また初年次教育調査や教養教育調査,卒業生調査など各種学生調査の実施・結果を踏まえて実施することとしている。

 そうした実践をベースとした大学教育研究を行うことが現在の課題である。

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